竹内研究室 京都大学大学院工学研究科電子工学専攻

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研究内容

以前の研究内容

光子を使った量子情報処理

下記の研究は、JST-CREST 量子情報処理(2003-2008)の支援を受けて実施した内容です。

線形光学量子回路

光子を用いた量子計算は光子が環境からのノイズに強いことや、光子1個の量子ビットの制御が高精度かつ、容易にできるという利点があります。しかし、一方で、光子間には非常に弱い相互作用しか働かないため、量子計算の基本ゲートの一つである制御ノットゲートの構築は困難とされてきました。

そのような中、2001 年頃から、量子もつれ合い状態を巧みに用いることで、線形光学素子のみで量子計算に必要な全ての量子ゲートが実現できることが分かってきました。
我々は部分偏光ビームスプリッタという特殊な素子を開発し、これまでよりもコンパクトかつ安定な量子ゲート(制御ノットゲート)を線形光学素子のみで実現しました[1,2]。


図1:制御ノットゲート実験系

  • [1] H. F. Hofmann and S. Takeuchi, Quantum phase gate for photonic qubits using only beam splitters and postselection, Phys. Rev. A. 66, 024308/1-024308/3 (2002)
  • [2] R. Okamoto, H. F. Hofmann, S. Takeuchi and K. Sasaki, Demonstration of an optical quantum controlled-NOT gate without path interference, Physical Review Letters,95,21,210506/1-4(2005)

下記の研究は、JST-CREST 量子情報処理(2003-2008)の支援を受けて実施した内容です。

量子メトロロジー

異なる経路を通る光線の間での干渉を利用した光の位相測定は、距離や物質の密度などを精密に測定する方法として、重力波天文学から生物学まで様々な分野において基本となる技術の一つです。

しかし、その測定精度は、レーザー光などを利用した場合、測定に用いる光の強度によって決まる限界(古典理論による限界)が存在していました。一方、量子理論では、複数の光子がもつれた状態を作製することができれば、その限界を超えられることが指摘されていました。

我々は、光子が4個互いにもつれ合った状態を高精度で作製することに成功し、かつ、特殊な工夫による非常に安定な光干渉装置を新しく作り出しました。この2つの開発により、3個以上の光子では初めて、古典理論による限界を超えた感度での光位相測定を実現しました[1]。


図2:実験系

  • [1] T. Nagata, R. Okamoto, J. O’Brien, S. Takeuchi and K. Sasaki Beating the Standard Quantum Limit with Four Entangled Photons Science , 316, 726-729 (2007)

下記の研究は、JST-CREST 量子情報処理(2003-2008)の支援を受けて実施した内容です。

量子もつれ

量子もつれ合いとは、2つの異なるシステム間で相関した状態が2つ以上あり、それらが(量子において複数の状態が同時に成立する)量子重ね合わせ状態にあることを言います。

光子一つの偏光状態を用いた場合、2状態系(キュビット)となります。光子2つの間での偏光のもつれ合いは発生方法が確立されており、量子暗号や量子計算の基礎実験に多く用いられてきました。

一方、光子二つが同一モード内ある場合、それは3状態系(キュトリット)となります。我々は、4つの光子を発生させ、3状態系のもつれ合いの検証事件を行い、初めてその確認に成功しました[1]。


図3:実験系

  • [1] K. Tsujino, H. F. Hofmann, S. Takeuchi and K. Sasaki, Distinguishing genuine entangled twophotonpolarization states from independently generated pairs of entangled photons, Phys. Rev. Lett. 92, 15, 153602/1-153602/4 (2004).

下記の研究は、JST-CREST 量子情報処理(2003-2008)の支援を受けて実施した内容です。

単一光子源・検出器

任意のタイミングで一個だけ光子を発生させる単一光子源や、光子を損失無く検出できる検出器は光子を用いた量子情報技術には欠かせません。

我々は必ず対で光子が発生する素子を用い、その一方の光子を検出し、その検出信号を元にもう一方の光子を制御することで単一光子状態を実現しました[1,2]。

また、約90 %という高い量子効率をもった光子検出システムも開発しています[3]。


図4:高量子効率光子検出システム

  • [1] S. Takeuchi, R. Okamoto and K. Sasaki, High-yield single-photon source using gated spontaneous parametric downconversion, Appl. Opt. 43,30,5708-5711 (2004)
  • [2] R. Okamoto, S. Takeuchi and K. Sasaki, Detailed analysis of a single-photon source using gated spontaneous parametric downconversion, Journal of the Optical Society of America B , 22, 11,2393-2401(2005)
  • [3] S. Takeuchi, J. Kim, Y. Yamamoto, and H. H. Hogue, Development of a high-quantum-efficiency single-photon counting system, Appl. Phys. Lett. 74, 1063-1065 (1998)
  • [4] J. Kim, S. Takeuchi, Y. Yamamoto, and H. H. Hogue, Multiphoton detection using visible light photon counter, Appl. Phys. Lett. 74, 902-904 (1998)

量子暗号

現在の暗号技術は、解読するために膨大な計算量(時間)が必要であることを安全性の根拠にしいます。そのため、超高速処理が可能な量子コンピューター等が出現した場合には、この安全性が脅かされると指摘されています。

これに対して「量子暗号」は、盗聴されたことを検知できるという特長があることから、絶対に解読されない究極の暗号として実用化が期待されています。
量子暗号通信システムでは、そのリソースとして単一光子が必要です。もし、2 個以上光子を発生させてしまうと、そのうちの1個を取り出して情報を盗聴され、暗号を解読される可能性があります。

我々は、同時に2 個以上の光子が発生する確率を1 万分の1 以下に抑えた「単一光子源」を開発し、この「単一光子源」を組み込んだ高精度な「量子暗号通信装置」を開発して、「単一光子源を実装した量子暗号システム」として世界最長の80km の原理検証実験に成功しました[1, 2]。
※この研究は三菱電機との共同研究です。


図5:量子暗号システム

  • [1] A. Soujaeff, S. Takeuchi, K. Sasaki, T. Hasegawa and M. Matsui, Heralded single photon source at 1550 nm from pulsed parametric down conversion, J. Mod. Opt. 54, 2, 467-475 (2007)
  • [2] A. Soujaeff, T. Nishioka, T. Hasegawa, S. Takeuchi, T. Tsurumaru, K. Sasaki and M. Matsui, Quantum key distribution at 1550 nm using a pulse heralded single photon source, OPT. EXP. 15, 2, 726-734 (2007)
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ナノフォトニクス&マイクロ共振器

ナノ光ファイバと固体微小球共振器

直径が光の波長と同程度になるまで細く引き伸ばした光ファイバ(ナノ光ファイバ) と、直径が10~100[um] 程度の誘電体球(固体微小球共振器) を結合させたものを「テーパファイバ結合微小球共振器」といいます[1-3]。

このようなデバイスと原子・量子ドット等を組み合わせることで、高効率に動作する固体量子位相ゲートの実現を目指しています。高効率量子位相ゲートは、量子情報通信を実現する上で、非常に重要なデバイスです。


テーパーファイバー結合微少共振器

  • [1] A. Chiba, H. Fujiwara, J. Hotta, S. Takeuchi and K. Sasaki, Resonant frequency control of a microspherical cavity by temperature adjustment, Jpn. J. Appl. Phys. 43,9A,6138-6141 (2004)
  • [2] A. Chiba, H. Fujiwara, J. Hotta, S. Takeuchi and K. Sasaki, Fano resonance in a multimode tapered fiber coupled with a microspherical cavity, Appl. Phys. Lett. 86,26,261106/1-3 (2005)
  • [3] H. Konishi, H. Fujiwara, S. Takeuchi and K. Sasaki, Polarization-discriminated spectra of a fiber-microsphere system, Appl. Phys. Lett. 89, 12, 121107/1-3 (2006)

単一分子・量子ドットによる非古典光発生

数nm から数十nm 程度のサイズの半導体量子ドットはバルクとは異なる非線形性や発光特性等のユニークな特徴を持つため、広く研究が行われています。そのような量子ドットの中でも特にコアシェル型のCdSe/ZnS 量子ドットは高い発光効率やサイズに依存した発光波長の選択性、さらに、室温でのアンチバンチングなど単一発光体として優れた特性を持ちます。

我々は、この単一CdSe/ZnS 量子ドットを用い、高効率の単一光子源の開発や非線形量子デバイスの開発を行っています。

微小球共振器を用いた発光制御

ファイバー結合微小球は高いQ値と高効率光入出力が可能な微小共振器として注目されています。私たちはEr とP をドープしたゾルゲルガラスをゲイン層としてコートした微小球をファイバーを結合させることで、これまでにない薄い膜厚でのレーザー発振に成功しました[1]。

さらに、このゲイン層の位置を制御することで、Er イオンが放出した自然放出光が微小球に結合する割合を増大させることができることを見いだしました[2]。

  • [1] Hideaki Takashima, Hideki Fujiwara, Shigeki Takeuchi, Keiji Sasaki, and Masahide Takahashi, Control of spontaneous emission coupling factor in fiber-coupled microsphere resonators, Appl. Phys. Lett. 92, 071115 (2008)
  • [2] Hideaki Takashima, Hideki Fujiwara, Shigeki Takeuchi, Keiji Sasaki, and Masahide Takahashi, Fiber-microsphere laser with a submicrometer sol-gel silica glass layer codoped with erbium, aluminum, and phosphorus, Appl. Phys. Lett. 90, 101103 (2007)

 

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